オフショア開発の提案書や体制図には、ほぼ必ず「ブリッジSE」という役割が載っています。ただ、PMと何が違うのか、通訳とどう分担するのかは、説明を受けてもわかりにくいところです。
この記事では、発注側の立場からブリッジSEの役割を整理します。PMや通訳との違い、工程ごとの仕事、品質を左右する5つの条件、発注側で準備しておくことの順に説明します。
ブリッジSEとは:発注側と開発チームをつなぐエンジニア
ブリッジSEは、日本の発注企業と海外の開発チームの間に立ち、要件や仕様を開発チームが実装できる形にして伝えるエンジニアです。BrSE、ブリッジエンジニアとも呼ばれます。言葉を訳すだけでなく、仕様の意図を理解し、足りない情報を発注側に質問して埋めるところまでが仕事です。

IPAの「ITスキル標準」は、IT技術者の職種を「コンサルタント」「プロジェクトマネジメント」「ITスペシャリスト」など11に分類しています(IPA「ITスキル標準:キャリアフレームワーク」)。一方、ブリッジSEはオフショア開発の現場で使われてきた通称です。そのため、担当する範囲は会社や案件によって違います。「ブリッジSEがいます」という説明だけでは、何をどこまで任せられるのかは判断できません。
発注企業の見方は、オフショア開発.com「オフショア開発白書(2025年版)」の目次からも読み取れます。発注企業への調査をまとめた章に、次の2つの見出しがあります。
- オフショア開発企業に感じた課題は「コミュニケーション力」と「品質管理」が引き続き上位
- 成功のポイントは「コミュニケーション」と「ブリッジSEの能力」
課題と成功要因のどちらにも、ブリッジSEの仕事が関わっています。
ブリッジSE・PM・通訳(コミュニケーター)の違い
3つの役割は、責任を負う対象が違います。
| 比較する点 | ブリッジSE | PM(プロジェクトマネージャー) | 通訳・コミュニケーター |
|---|---|---|---|
| 責任範囲 | 仕様が正しく伝わり、意図どおりに実装されること | 計画、進捗、品質、体制などプロジェクト全体 | 発言や文書が正確に訳されること |
| 必要なスキル | 設計・実装の経験、日本語の読み書きと会話、日本の商習慣の理解 | 計画と見積もり、リスク管理、チームの統率 | 語学力、IT用語の知識 |
| 発注側との接点 | 仕様の確認、質問と回答、日々の連絡 | 定例会議、計画や体制の変更、課題の報告 | 会議の通訳、文書の翻訳 |
| 仕様への踏み込み | 矛盾や抜けを見つけ、代案を出す | 影響範囲と優先順位を判断する | 原則として内容には踏み込まない |
小規模な案件では、PMがブリッジSEを兼ねることもあります。兼任そのものは問題ではありません。確認したいのは、兼任した結果、仕様の確認と進捗の管理のどちらかが手薄にならないかという点です。
通訳やコミュニケーターだけを置く体制では、技術的に判断できる人が発注側との会話に入りません。「この仕様だと既存の処理と矛盾する」といった指摘が出にくくなり、問題がテスト工程まで持ち越されやすくなります。
工程ごとに見るブリッジSEの役割
ブリッジSEの仕事は、工程によって中身が変わります。発注側で用意するものとあわせて整理します。
| 工程 | ブリッジSEの主な仕事 | 発注側で用意するもの |
|---|---|---|
| 要件定義 | 要望の背景と業務の流れを聞き取り、不明点を質問の一覧にする | 業務の説明ができる担当者、現行の資料 |
| 設計 | 設計書を開発チームの言語で説明し、日本語の設計書をレビュー用に整える | 画面や帳票の見本、判断に迷う点への回答 |
| 開発 | 日々の質問を取り次ぎ、仕様変更の影響をPMと確認して伝える | 質問への回答、変更の優先順位 |
| テスト | テスト観点が要件と合っているかを確認し、不具合の内容を日本語で報告する | 業務上の例外パターンの共有 |
| 受け入れ | 指摘事項を整理し、不具合か仕様変更かを切り分ける | 受け入れの基準、確認する担当者 |
| 保守 | 問い合わせと障害の一次対応、改修依頼の内容確認 | 連絡の経路、緊急度の基準 |
どの工程にも共通する傾向があります。ブリッジSEが自分から質問を出すほど、後工程の手戻りは減ります。要件定義と設計の段階で質問がほとんど出てこない場合は、仕様が十分に読まれていない可能性があります。
品質を左右するブリッジSEの5つの条件
ここからは、ブリッジSEの体制について発注前に確認しておきたい5つの条件を挙げます。いずれも、商談の際にMOHAへそのままご質問いただける内容です。

1. 設計と実装を理解しているか
日本語が流暢でも、設計の経験がなければ、仕様の矛盾には気づけません。ブリッジSEが設計書のレビューに入るのか、開発チームからの技術的な質問に自分で答えるのかを確認します。MOHAにご相談の際は、案件の技術スタックと、ブリッジSEに期待する範囲をお伝えください。
2. 日本語と日本の商習慣を理解しているか
日本語力の目安として、日本語能力試験(JLPT)のN1、N2がよく使われます。公式サイトの「N1~N5:認定の目安」によると、N1は「幅広い場面で使われる日本語」を理解できるレベルです。N2は、日常的な場面の日本語に加えて、「より幅広い場面で使われる日本語」をある程度理解できるレベルとされています。
注意したいのは、この目安が「読む」「聞く」という言語行動で示されている点です。仕様の曖昧さを質問で詰める力や、議事録を書く力までは、級だけでは判断できません。あわせて、「検討します」が必ずしも承諾を意味しないといった、日本の仕事上の言い回しを理解しているかも品質に影響します。資格の級は入口の目安と考え、実際のやり取りをどの手段と頻度で行うかを商談でご確認ください。
3. 専任か兼任か、1人が担当する範囲はどこまでか
1人のブリッジSEが複数の案件を掛け持ちしていると、質問への回答が遅れ、開発チームの手が止まります。まず、専任と兼任のどちらであるかを確認します。兼任の場合は、稼働のうちどの程度を自社の案件に充てるのかも尋ねます。チームの人数が増えると、1人のブリッジSEでは取り次ぎが追いつかなくなります。体制を広げる計画がある場合は、その時点の分担もあわせてMOHAにご質問ください。
4. 仕様の曖昧さを質問で潰す運用があるか
品質の差は、個人の能力よりも運用の仕組みで決まることが多くあります。たとえば、質問と回答を一覧で管理しているか、回答の期限を決めているか、決定事項を文書に残しているかです。
曖昧な要望を、検証できる仕様に置き換えることも運用の一部です。MOHAが公開しているホテル向け予約システムの事例では、LINEのチャット上で選択肢をタップするだけで、10秒以内に予約が完了する操作設計にしています。「手軽に予約できるようにしたい」という要望も、「10秒以内」という数字になれば、受け入れの際に測って確認できます。
5. 不在時の代替体制があるか
窓口がブリッジSE1人に集中していると、その人の休暇や退職で開発が止まります。不在時に誰が代わりを務めるのか、仕様の経緯や決定事項が個人のチャットではなく共有の場所に残っているかを確認します。この点は、次の章で説明する法的な整理とも関係します。
要望はPM・ブリッジSEを通じて伝える:偽装請負を避けるために
発注側の担当者が、ベンダーのエンジニア一人ひとりに直接作業を指示すると、実態として労働者派遣と判断されるおそれがあります。いわゆる偽装請負です。判断の基準は「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」(37号告示)で、厚生労働省が疑義応答集を公開しています(厚生労働省「37号告示関係疑義応答集」)。準委任契約の場合も、契約の形式ではなく実態に即して、同じ基準で判断されます(疑義応答集(第3集))。
ブリッジSEの体制に関係するのは、次の3点です。
1点目は、要望を伝える相手です。疑義応答集のQ2は、発注者から請負事業主への要求や注文を、契約の当事者間のやり取りと整理しています。これは偽装請負にあたりません。一方、発注者が個々の作業者へ作業工程の変更を直接指示すると、指揮命令と判断されます。
2点目は、受注側の管理責任者です。同じ疑義応答集のQ4によると、管理責任者は作業の指示、作業者の管理、発注者との注文に関する交渉の権限を持ちます。不在にすることがある場合は、代理の者を選任しておけば問題ないとされています。
3点目は、会議とメールの扱いです。疑義応答集(第2集)の問9と問10がこれを扱っています。打ち合わせへの作業者の同席や、依頼メールをccで作業者にも送ることは、それだけで直ちに労働者派遣とは判断されません。ただし、作業の順序や割り振りを細かく指示したり、作業者に直接の返信を求めたりすると、判断が変わります。

オフショア開発の体制では、この管理責任者に近い役割をPMとブリッジSEが担います。ブリッジSEを通して要望を伝える運用には、契約を適正に保つ意味もあります。前の章で挙げた「不在時の代替体制」は、品質と法務の両面から確認する意味があります。
MOHAでも、エンジニアへの指揮命令はMOHA側のPM/ブリッジSEを通じて行います。お客様に決めていただくのは、作りたい内容と優先順位、受け入れの基準です。個別のケースの判断は、各都道府県の労働局が実態に即して行うとされています。契約形態ごとの線引きは、ラボ型開発とは?請負との違いと向いている案件で詳しく説明しています。
AIツールでブリッジSEの仕事はどう変わるか
翻訳ツールや生成AIの普及で、文書の翻訳や議事録の下書きにかかる時間は短くなりました。その分、ブリッジSEの仕事は「訳す」ことから「仕様の穴を見つけて確認する」ことへ比重が移っています。
MOHAは、この確認作業を支えるツールを自社で開発しています。1つは、要件定義書や仕様書を分析する「SpecLens」です。公開している紹介ページでは、文書の自動構造化、矛盾や欠落箇所の自動検出、曖昧な表現のハイライト、自然言語での質問応答を主な機能として挙げています。
もう1つは、要件書からテストケースを生成する「Design Checklist」です。観点、シナリオ、高レベル、低レベルの4段階でテストケースを出力し、要件とテストの対応関係をレポートに残します。紹介ページには、社内の開発プロジェクトですでに使っていると記載しています。
ただし、AIが担えるのは候補を挙げるところまでです。検出された矛盾のうちどれが業務上の問題なのか、どの仕様を優先するのかは、発注側に確認しなければ決まりません。その確認を日本語で行い、開発チームに戻す仕事は、引き続きブリッジSEが担います。
なお、同じ白書は開発企業への調査の章で「英語対応力の成熟と“脱ブリッジSE依存”の兆し」という見出しを立てています。発注側に英語で仕様を詰められる担当者がいる場合は、ブリッジSEを介さない体制も選択肢になります。社内の公用語が日本語で、仕様書も日本語で書く企業では、日本語で対応するブリッジSEを置く体制が現実的です。
発注側が準備しておく3つのこと
ブリッジSEの力を引き出せるかどうかは、発注側の準備にも左右されます。
窓口を1人決める
発注側の複数の担当者がそれぞれ別の要望を伝えると、ブリッジSEはどれを正とすべきか判断できません。仕様の最終判断をする担当者を1人決め、要望はその人を通して伝えます。受注側の窓口をPM・ブリッジSEに一本化するのと対になる準備です。
用語集を作る
社内だけで通じる略語や業務用語は、誤訳のもとになります。「締め」「仮押さえ」「差し戻し」のような言葉は、会社によって意味が違います。用語と定義を1つの表にまとめ、プロジェクトの最初にブリッジSEと読み合わせておくと、設計以降の質問が減ります。
決定事項を文書で残す
口頭の決定事項は、その日のうちに文書へ残します。日本とベトナムの時差は2時間で、業務時間の大半が重なるため、会議は設定しやすい環境です。それでも、記録が残っていなければ、担当者が替わったときに経緯を追えません。議事録をどちらが書き、どこに保存するかを最初に決めておきます。
MOHAのオフショア開発センターでは、仕様が固まっていない場合、開発の初期段階でプロトタイプを作成します。ご要望と仕様が確定してから本格的な開発に入る進め方です。文章だけでは伝わりにくい仕様を、動く画面で確認できます。契約の段階で決めておく項目は、オフショア開発契約で失敗しないための7つのチェックリストにまとめています。
よくある質問
ブリッジSEは日本とベトナムのどちらにいますか?
配置は3通りあります。現地の開発拠点に置く形、日本国内に置く形、発注側の社員が務める形です。現地にいれば開発チームと密に連携でき、国内にいれば対面で打ち合わせできます。どの配置が合うかは案件によって変わるため、ご相談の際に体制のご希望をお聞かせください。
ブリッジSEがいれば、発注側に英語やベトナム語は必要ありませんか?
日本語で対応するブリッジSEが窓口になる体制であれば、発注側は日本語でやり取りできます。ただし、前述した用語集の整備と決定事項の記録は、言語にかかわらず発注側で行う準備です。
ブリッジSEとPMは別の人にするべきですか?
案件の規模によります。小規模な案件では兼任のほうが情報の伝達が速いこともあります。チームが大きくなり、仕様の確認と進捗の管理が同時に増えてきたら、分けることを検討します。
エンジニアと直接チャットで話してもよいですか?
仕様の説明や質問への回答をエンジニアと共有すること自体は問題ありません。避けるべきなのは、作業の順序や担当の割り振りを、発注側からエンジニアに直接指示することです。PM・ブリッジSEも入っているチャンネルでやり取りすると、経緯も残ります。
ブリッジSEの体制についてのご相談
MOHAは、日本法人の合同会社MOHAジャパンが契約と窓口を担い、ハノイの開発チームが開発を担当しています。ブリッジSEの配置や担当範囲、発注側で準備する内容は、案件の規模と工程によって変わります。体制を検討中の方は、お問い合わせ・ご相談からご連絡ください。これまでの開発事例は導入事例でご覧いただけます。
参考文献
- オフショア開発.com「オフショア開発白書(2025年版)」リリース記事(2026年1月21日)https://www.offshore-kaihatsu.com/news/articles/wp_2025/
- 日本語能力試験の公式サイト「N1~N5:認定の目安」https://www.jlpt.jp/about/levelsummary.html
- IPA「ITスキル標準:キャリアフレームワーク」https://www.ipa.go.jp/jinzai/skill-standard/plus-it-ui/itss/career-framework.html
- 厚生労働省「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準(37号告示)関係疑義応答集」https://www.mhlw.go.jp/bunya/koyou/gigi_outou01.html
- 厚生労働省「37号告示に関する疑義応答集」https://www.mhlw.go.jp/content/001328443.pdf
- 厚生労働省「37号告示に関する疑義応答集(第2集)」https://www.mhlw.go.jp/content/000780138.pdf
- 厚生労働省「37号告示に関する疑義応答集(第3集)」https://www.mhlw.go.jp/content/001704257.pdf